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司法・犯罪心理学における最優先事項は何か?

 先日、某大学院の講義「司法・犯罪分野に関する理論と支援の展開」の15回を無事終えることができた。15回講義する体験を終え、心に浮かんできたことを書き留めておきたいと思った。
 今回、講義をするにあたり、テキストとなる本を5冊ほどを手元に置き、その中の2冊を核にして講義資料を作っていった。つまりざっと5冊に目を通したが、その上で強烈に思ったことがある。これらは犯罪心理学について書いてあるのだが、犯罪新心理学は大きく分けて①犯罪の原因論、②加害者支援(加害者臨床)、③被害者支援、④犯罪予防のテーマがある。私がテキスト本を通して感じたのは、②の加害者支援の割合の多さと④の犯罪予防の割合の少なさである。
 本によって割合は異なるが、概ね加害者支援は全体の半分ぐらいを占め、犯罪予防は私が核とした2つの本には書いていなかった。(ちなみにその2冊を講義資料の核としたのは10名以上の多くの著者からなる本であるなどの理由からである。)
 このようなテーマの分量の差は実際に加害者支援に関わっている人が圧倒的に多く、犯罪心理学全体でどうしてもそちらが(比較して)研究や実践が充実しているという事情の表れであろう。そのこと自体は仕方ないかな、と思う一方で、犯罪予防の項目がない(もしくは極端に少ない)のは問題ではないか、とも思う。
 なぜならば、犯罪を生まないことは最優先に考えるべきではないか、と考えるからである。
 加害者支援(加害者臨床)は再犯防止であり、起きてしまった犯罪「1」を2や3にしないためのアプローチである。一方犯罪予防は「0」を「1」にしないアプローチである。当然「1」がなければ2や3もなくなるので、0を1にしないことは根本的に重要であろう。
 再犯防止、加害者支援の重要性は全く否定しない。というのではなく、少なくとも再犯防止と同じぐらい犯罪予防は重要だと言いたいのである。いや、正直に言うと、私の中では再犯防止よりも犯罪予防の方が重要であると思っている。犯罪が起きるということは、被害者が生まれ、重大なトラウマや喪失により人間の限界を超えるほどの苦しみを抱えるからである。同時に加害者も生まれ、こちらも様々なものを背負うことになり、一般に加害者の辛さもある。
 そのような被害者も加害者も生まない世界を作るのが最優先の事項であろうと思うのである。だから、テキストの項目に犯罪予防がないことが個人的にしっくりいかなかった部分があるのだと思う。ただし、犯罪予防や防犯心理学について書かれたテキストは5冊中2冊あり、それについては少し安心した。
 また、私の実践および研究のテーマは犯罪被害者支援であるが、総じて言えば、被害者支援の分量もあまり多くなかった。特に実践面での知見は既に多くの報告があり、総論ではなく「性暴力被害」「被害者遺族」と各論を充実させるべきであると私は思う。
 次回はこれらの所感を出発点にして、では犯罪予防として何がポイントとなりそうか、現在の時点で私が考える試論をいくつか書いてみたい。

追記:犯罪に非常に近い、または重なるのが「いじめ」「パワハラ」「セクハラ」「DV」などの加害・被害関係の生まれる暴力関連の事柄である。それらの予防や対策一つ一つも非常に関心がある。それらの知見を学ぶとともに、まだまだ不十分な面があるので自らも研究に関わっていきたい。

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