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ミニ書評②:小松原織香「当事者は嘘をつく」

小松原織香「当事者は嘘をつく」2022年、筑摩書房

 2022年に私が読んだ本の中で最も引きこまれ、途中でページを捲る手が止まらなかった本です。性犯罪被害者であり、法学の研究者である著者が自身の経験と思いを誠実に綴っています。最後の方に本文に書かれている文がこの本の位置をわかりやすく教えてくれています。「私がほしかったのは、どうすれば被害の記憶を抱えたまま、もっと強くなり、自らの道を歩く力を得ることができるようになるのか、という情報だった。そのアンサーの一つとして、この本を書いた」(本文P197)
 この本はとても誠実でとても丁寧に書かれています。性犯罪被害者支援の第一人者をはじめ、具体的な支援者や研究者が文中に登場しますが、そのどの点が役に立って、どの点がマイナスであったのかを忌憚なく、実直に教えてくれます。それが自身の経験に基づく言葉であるため、説得力は計り知れなく大きいと感じました。さらに個人的には私自身が(学問は違うが)研究者を目指しているので、一研究者としてもがきながら一歩一歩進む姿に勇気もいただきました。
 おそらく「当事者研究」の一つとも考えられそうです。私自身、この本を下敷きにパワハラで苦しみ、さらに喪失体験をし、どん底だった自分が、幾つかの人や考え方に救われて少しづつ回復の道に乗れたそのプロセスを書いてみたいなと思いまいた。そう思わせてくれたくれた時点で、すでに半分救われているなあ、と感じる、私にとって忘れられない本となりました。

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